ミヒャエル・ゾーヴァの世界【茶色の本3】
先日は、無人であるにもかかわらず部屋の隅々まで物語が転がっているような不気味な洋館の絵本を紹介しましたが、今回は、人(と動物)がいても不気味な雰囲気の漂う画集を持ってきました。
作者は、映画『アメリ』で美術を担当されていた方です。
2001年、ジャン・ピエール・ジュネ監督の映画『アメリ』で、劇中に使われる絵とランプを制作、これによってさらに知名度が高まった。
絵自体は空間を活かした作品が多いです。
登場人物はポツネンと佇み、白目を剥いてこちら側を凝視しています。
その表情は私達に、異型の者たちが集う密やかな会食会に間違えて迷い込んでしまったような、居心地の悪さを感じさせます。
1枚の絵から立ち上がる不思議な物語。笑いに満ちた空間。可愛らしさの奥にちらりと漂う毒気。ただならぬ気配。こみあげる懐かしさ。
動物がいてユーモラスな画集かと思いきや、なかなか迫力ある作品集です。
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■次回
人かあるいは異界の者か。
夜の暗闇を跋扈する、今度は精霊をモチーフにした画集はいかがでしょう。
ダークファンタジー基調な所がよく似ています。
ナチュリタ―神蔵美子写真集 【茶色の本3】
先日は静謐で孤独な空間を描いたハンマースホイの画集を紹介しましたが、今回は、静謐でうら寂しいアメリカを切り取った写真集を持ってきました。
アメリカの人口700人に満たない町、ナチュリタ。
新進女性写真家がそこで捉えた、アメリカの原型。
白黒、1ページ1枚の写真集です。
神蔵美子さんは、女装写真集や自分の過激な恋愛を写真集にするなど
パンチの効いた作家さんとして有名な方だと思います。
(女装写真集については以前にも紹介しました)
私がこの本を買ったのは、神蔵さんを全く知らなかった頃です。
そんなに有名な方だとはつゆ知らず、
でもめくるたび、写真にグイグイ惹かれていきました。
写真集は、実はあまり買うことはありません。
絵画や立体に比べて、作品として大味に感じてしまうというか、
何千円も出す割には作品数が少なかったり、
作者の力量がよく分からない作品集が多いです(ホント…)。
でもこの写真集は、すごいです。
撮っているのはアメリカの片田舎。
いかに田舎かを引きでわざとらしく表現するでもなく、
日常にあるものを丁寧に切り取っています。
その距離感が、凄い。
大切にしているけれども、あえて近寄りすぎず、切り取る。
今でこそ こういう写真は増えてきたと思いますが(佐内正史さんとか)、
これを1990年に撮っているのが凄い。
今の写真家、佐内さんたちのようにヒネて撮ることもなく(ブラしたりとか)、
まっすぐ正面から撮っています。そこも凄い。
一体どんな写真家なんだろう、、と調べてたら、
自身の恋愛遍歴を作品にしている事を知りました。
「たまもの」は、私小説であり、極めて個人的な写真集です。写真家の神蔵美子さんは、文芸評論家の坪内祐三さんと出会い、当時神蔵さんは既婚者、坪内さんは結婚式を一ヶ月前に控えた身であったけれども、式の一週間前に婚約破棄して、二人は結婚します。しかし数年後、神蔵さんは、編集者として有名な末井昭さんと出会い恋に落ちる。神蔵さんには坪内さんという夫がいて、末井さんも既婚者で、所謂「W不倫」なのですが、末井さんは奥さんに「好きな人が出来たので家を出ます」と言って家を出て離婚し、神蔵さんも坪内さんに「好きな人が出来たから家を出ます」と告げます。
なんだか複雑で頭を抱えたくなりますが、分かります。
こんなに対象を慈しみながら切り取ることが出来る人は、間違いなくモテるはず。
「たまもの」でキワモノ作家として有名な感がありますが、
いやいやこの写真集のほうが衝撃を受けました。
未来図書では「ナチュリタ」を採択いたします。
どうしてそんなに男性を夢中にさせるのか、
その証左として、この「ナチュリタ」を眺めてみるのも一興かもしれません。
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■次回
アメリカの垢抜けない原風景といえば、スティーブン・ショアー。
まるで実家を写真で写したような、気恥ずかしい垢ぬけなさが良いです。
■次回
この写真が撮られた80年代の日本はこんな感じでした。
こんな時代に「ナチュリタ」の持つ静謐な観察眼がすでに存在していたなんて、と
驚きを共感できれば何よりです。
廃体光景―現代エロティック美術(相馬俊樹)【黒色の本8】
先日はゴシックアートを纏めたアンソロジーを紹介しましたが、今回はゴシックの中でもとりわけ性的で退廃的な分野を纏めた作品を持ってきました。
まだエロがアングラなものであった時代の作品集です。
いわゆるアンリ・マッケローニ/リシャール・セーフ/ジェラール・ガシェ/ハンス・ベルメール/ピエール・モリニエ、マゾッホ、バタイユ、澁澤龍彦…なんかが好きな人向けの冊子です。
女陰をかたどった版画と小難しい解説が並びます。
個人的にこの辺りは一時期気になっていた時もあったのですが、
今は興味が移ってしまった感があります。
アマゾンでも全くレビューもなく、検索しても言及されているサイトも一つもなかったので、記念碑のようにここに書き記しておきます。
こんなインテリ背徳な雰囲気を楽しむのも、たまには良いものです。
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■次回
文章が難解で何を書いてるのかよく分からないけど何となく雰囲気を楽しむ。。
そんな楽しみかたが出来る方に打ってつけの詩集があります。
星の王子さま【赤色の本4】
先日は、牧歌的でありながらも大人向けの”深い”4コマ漫画を紹介しましたが、今回も続いて、大人向けの”深い”絵本をもってきました。
もはや説明不要なこの名作。
『かんじんなことは、目には見えないんだよ』などの多数の名言が載っている名作古典絵本です。
いつ頃から本棚に置いてあるのか。。忘れてしまいました。
表に書票シールを剥がした跡があるので、どこかの図書館の廃本かもしれません。
トリイ・ヘイデン『シーラという子』の主人公が星の王子さまを好きで、
その内容を語る短いエピソードがありました。
その印象が強く残っていて、実際に星の王子さまを読んだのはその後でした。
たまにはこんなか弱い本も、大切です。
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■次回
絵本調の”幼い”SF繋がりで、月を巡る絵画絵本はいかがでしょうか。
■次回
心あらわれる名作もいいけれど、少しは毒があるのも居心地がいいものです。
可愛い顔してピリリと辛い発言が光る、ブンカオトメちゃんはいかがでしょう。
佐藤雅彦 ggg Books 71(スリージーブックス 世界のグラフィックデザインシリーズ71)【白色の本11】
先日は、くすりと笑える珍アイデア道具集を紹介しましたが、今回はアートとしても完成度の高い、とびきりのアイデアを具現化する佐藤雅彦さんの作品集をもってきました。
佐藤雅彦 ggg Books 71(スリージーブックス 世界のグラフィックデザインシリーズ71)
「バザールでござーる」等の広告を多数手がけたり、哲学や経済を分かりやすく紐解く本の執筆、ゲーム「I.Q」、教育番組「ピタゴラスイッチ」の制作と多彩に活躍してきた。ここ数年は、慶応義塾大学で表現と教育を軸にした研究活動を行い、各方面から注目を集めている。この作品集では、佐藤雅彦のグラフィックデザイン作品に焦点を当て、よく知られたコマーシャルな仕事ではなく、あまり公にされてこなかった個人的な仕事が集められている。
個人的には「ピタゴラスイッチの佐藤さん」というイメージがあったのですが、
ゲームの作成や広告、手広く仕事をされています。
内容はグラフィックシリーズだけあり、印刷物が主に取り上げられています。
こういった紙モノの活動はあまり知らなかったので新鮮です。
細かい直線や弁当的な詰め込み方。
流石に今となっては古い感じも漂いますが、
当時はきちんとその最先端を切り取っていたのでしょうね
佐藤雅彦さんらしい、「お」と思わせるアイデア的写真も少しだけ載っています
巻頭に発想のための短い文章が載っているのですが、
「新しいものは(新しさ故に)人に理解されない。理解できる、と、新しい、の間を言語化する事が必要」と書かれており、
かなり理論建ててデザインされていると感じました。
やったことがなくて、やられたことがなくて、まだ言語化されてないけれど「これは面白いんじゃないか」というのをジャンプして見つける。ジャンプしたあかつきには、それを言語化できるんですけど。もう毎回ジャンプを入れようとしているんですね。
佐藤雅彦 ggg Books 71(スリージーブックス 世界のグラフィックデザインシリーズ71)
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■次回
こちゃこちゃ書かれた紙モノを読むのがお好きな方へ。
00年代出版で、少し時代を感じさせる所も似ている漫画です。
■次回
思わず「お」と驚くのがお好きな方へ。
古くからある「騙し絵」をわかり易く解説した一冊。勿論絵も豊富です。