ナチュリタ―神蔵美子写真集 【茶色の本3】
先日は静謐で孤独な空間を描いたハンマースホイの画集を紹介しましたが、今回は、静謐でうら寂しいアメリカを切り取った写真集を持ってきました。
アメリカの人口700人に満たない町、ナチュリタ。
新進女性写真家がそこで捉えた、アメリカの原型。
白黒、1ページ1枚の写真集です。
神蔵美子さんは、女装写真集や自分の過激な恋愛を写真集にするなど
パンチの効いた作家さんとして有名な方だと思います。
(女装写真集については以前にも紹介しました)
私がこの本を買ったのは、神蔵さんを全く知らなかった頃です。
そんなに有名な方だとはつゆ知らず、
でもめくるたび、写真にグイグイ惹かれていきました。
写真集は、実はあまり買うことはありません。
絵画や立体に比べて、作品として大味に感じてしまうというか、
何千円も出す割には作品数が少なかったり、
作者の力量がよく分からない作品集が多いです(ホント…)。
でもこの写真集は、すごいです。
撮っているのはアメリカの片田舎。
いかに田舎かを引きでわざとらしく表現するでもなく、
日常にあるものを丁寧に切り取っています。
その距離感が、凄い。
大切にしているけれども、あえて近寄りすぎず、切り取る。
今でこそ こういう写真は増えてきたと思いますが(佐内正史さんとか)、
これを1990年に撮っているのが凄い。
今の写真家、佐内さんたちのようにヒネて撮ることもなく(ブラしたりとか)、
まっすぐ正面から撮っています。そこも凄い。
一体どんな写真家なんだろう、、と調べてたら、
自身の恋愛遍歴を作品にしている事を知りました。
「たまもの」は、私小説であり、極めて個人的な写真集です。写真家の神蔵美子さんは、文芸評論家の坪内祐三さんと出会い、当時神蔵さんは既婚者、坪内さんは結婚式を一ヶ月前に控えた身であったけれども、式の一週間前に婚約破棄して、二人は結婚します。しかし数年後、神蔵さんは、編集者として有名な末井昭さんと出会い恋に落ちる。神蔵さんには坪内さんという夫がいて、末井さんも既婚者で、所謂「W不倫」なのですが、末井さんは奥さんに「好きな人が出来たので家を出ます」と言って家を出て離婚し、神蔵さんも坪内さんに「好きな人が出来たから家を出ます」と告げます。
なんだか複雑で頭を抱えたくなりますが、分かります。
こんなに対象を慈しみながら切り取ることが出来る人は、間違いなくモテるはず。
「たまもの」でキワモノ作家として有名な感がありますが、
いやいやこの写真集のほうが衝撃を受けました。
未来図書では「ナチュリタ」を採択いたします。
どうしてそんなに男性を夢中にさせるのか、
その証左として、この「ナチュリタ」を眺めてみるのも一興かもしれません。
※※ この本に似た作品にリンクします。お好きな次回を選んでください※※
■次回
アメリカの垢抜けない原風景といえば、スティーブン・ショアー。
まるで実家を写真で写したような、気恥ずかしい垢ぬけなさが良いです。
■次回
この写真が撮られた80年代の日本はこんな感じでした。
こんな時代に「ナチュリタ」の持つ静謐な観察眼がすでに存在していたなんて、と
驚きを共感できれば何よりです。