未来図書

未来食堂の蔵書一覧。画集や写真集などの珍しい本を紹介しています。

建材工場(内田 信平, 西山 輝彦)【黒色の本7】

先日は建築中の月や天体を描いた空想版画絵本を紹介しましたが、今回は建築繋がりで、『建築に欠かすことの出来ない材料』を生む、建材工場の写真集を持ってきました。

 

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建材工場(内田 信平, 西山 輝彦)

 

門外不出の製造現場を完全撮り下ろし!建築に欠くべからざる材料が生まれる場所。

Amazon.co.jp: 建材工場: 内田 信平, 西山 輝彦: 本

 

00年代から始まった廃墟ブーム。
小林伸一郎さんの『廃墟遊戯』が発表されたあたりでしょうか。 
廃墟ブームはその後、工場ブーム→アンダーグラウンドブーム(地下巨大実験室や地下鉄など)→ジャンクションブーム→ダムブームと遷り変りをみせています。

 

”普段目にすることの出来ない巨大施設”という括りで言えば、この本もまさにそのジャンル。
建材ごとにジャンル分けされてカラー写真が並んでいます。

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廃墟は好きなのですが、その後のブームには乗りきれていません。
巨大ジャンクションも地下実験施設も面白い…とはおもうのですが、
あまりにもブーム過ぎて私が買わなくてもいいかと思ってしまいます。
JAPAN UNDERGROUNDなんて4巻まで出ているし

 

そんな中でこの本は建材ごとにジャンル分けされていて、「普段見慣れているはずの物たちなのに、はてこれはどのパーツだろう?」とクイズのように楽しめる感じが面白かったので、購入しました。
写真も少し暗い感じに撮っていて、シュールさを増しています。

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 個人的には、写真の下にキャプションが付いていて欲しかったです。
撮った場所と素朴な感想は巻末に載っているのですが、
写真を見ながら感想を読めればもっと距離が近くなったかと思います。

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建材工場(内田 信平, 西山 輝彦)



※※ この本に似た作品にリンクします。お好きな次回を選んでください※※
■次回
海外出版の、工場内部を撮した写真集はいかがでしょうか。「No Mans Land」のタイトルとおり、工場に留まらず実験室など奇妙な部屋の写真であふれています。こちらは写真の説明はほぼなく、謎は謎のまま置かれている感じが良いです。

■次回
工場ではないのですが、日本各地の廃墟を収めた”廃墟遊戯”はいかがでしょうか。てテイストが似ており『廃墟→工場→巨大建築』萌えブームの潮流が分かるかもしれません。

青い月の物語【青色の本1】

先日は、建築中のまま捨て置かれた建物群がモチーフの、不思議な空想画集を紹介しました が、今日は、月や天体を建築する銅版画集を持ってきました。

 

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青い月の物語

 

うれしいことも たのしいことも いつかは終わる。かなしいことや つまらないことも いつの間にか過ぎ去る。終わりは、はじまり 新しい物語が そこからはじまる。小浦昇の銅版画にやさしい詩をつけた作品集。

Amazon.co.jp: 青い月の物語: 小浦 昇: 本

 

 

月がプロジェクタで投影されていたり、仮設足場に囲まれ建築中だったり。

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銅版画とはあまり感じられない、ファンシーで鉛筆ぽいラインの作品です。
実物を見たら版画の感じが伝わるのでしょうか。 

詩と絵画が見開きで並べられています。作詩は別の方のようです。

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詩にしても絵画にしても、ゆるい空気を楽しむ大人絵本といった趣です。
野又穂さんのように崩壊した廃墟でもなく、ひたすらに優しい詩と絵が並んでいます。
当たり障りがないけどちょっとおしゃれな感じは、プレゼントにも最適です。

 

青い月の物語 


※※ この本に似た作品にリンクします。お好きな次回を選んでください※※
■次回
建築中の月や天体は、何かワクワクしてしまいます。
そんな建築好きの心を捉える、その名も”建材工場”はいかがでしょうか。

■次回
詩と絵が別々の作家。では、”写真と文章が別々の作家”はいかがでしょうか。
写真は佐内正史さん、文は角田光代さん。強い色はなくても、不思議な統一感があります。

 

高山正隆と大正ピクトリアリズム【黒色の本7】

先日は昭和の投稿写真雑誌を紹介しましたが、今回は、それよりも遥かに昔でありながらもアートとして完成された写真集を持ってきました。

 

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日本の写真家〈5〉高山正隆と大正ピクトリアリズム

 

大正末から昭和初期にかけて,抒情的なソフトフォーカス写真などで,竹久夢二萩原朔太郎に通じる浪漫世界を表現した高山正隆(1895-1981)を中心に,絵画的傾向の強い写真家たちを紹介する.

Amazon.co.jp: 日本の写真家〈5〉高山正隆と大正ピクトリアリズム: 長野 重一: 本

 

中は見開きで写真が紹介されています。
写真でありながらも叙情的な絵画のような、銅版画のような作品です。
これが大正時代の作品なんて!

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大正時代はアートのように写真を取ることが流行った時代だったそうです。
その後、『存在するものを存在するように撮る』事が主流になり、このようなピクトリアリズムのブームはなくなってしまったのだとか。

 

ピクトリアリスム(ピクトリアリズム、英:pictorialism, 仏:pictorialisme)とは、乾板写真が広く導入された後、1885年ころから流行した写真の潮流に与えられる名前である。20世紀の初期に最高潮に達して、モダニズム写真が広い範囲にわたって出現した後の1914年以後急速に衰退した。

19世紀、写真技術の科学者と写真師は同じくくりで扱われていたが、このことに芸術としての写真を目指すものたちが不満をもったのが、ピクトリアリズム写真誕生のきっかけである。

1910年ごろからストレートフォトグラフィが普及するに伴い、絵画を模倣するような作品は写真の本来の姿ではないなどと厳しい批判の対象とされてそれ以前の勢力は失った。

ピクトリアリスム - Wikipedia

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当時は写真技術者と写真師が同一視されていたのですね。
今のように「写真家」という称号すらない時代、写真がアートであることは既存のアート(絵画)を模倣することでしか伝わらなかったということでしょうか。

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写真のような絵画のような‥。
今は廃れてしまったこの静寂な世界は、いわばアートのパラレルワールドかもしれませんね。

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日本の写真家〈5〉高山正隆と大正ピクトリアリズム

 


※※ この本に似た作品にリンクします。お好きな次回を選んでください※※

■次回
ピクトグラム繋がりで、ウィトキンを。銅版画のような絵画性の高い写真です。
でもかなりグロテスクです。お食事中の方はお避けくださいね。

■次回
”懐かしいけど新しい”繋がりで、万葉集をリミックスした写真詩集を。
現代語訳された万葉集は、日本最古の歌集にも関わらず新鮮な驚きを与えてくれます。
有名無名関わらず載せてある写真も素晴らしいです。

アサヒカメラ(1955年11月号)【茶色の本3】

先日は、戦前〜90年代までの日本の都市風景をバランスよく纏めた写真集を紹介しましたが、今回は一時代に焦点を合わせて、1955年に出版された写真投稿雑誌を持ってきました。

 

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アサヒカメラ (1955年11月号)
※リンク先は最新刊のアサヒカメラです

当時をそのまま切り取った”古本”の空気をお楽しみください。

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このカメラ(2眼レフ?)は当時最先端だったのか、懐古的大人玩具だったのか?
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写真投稿雑誌について詳しくはないのですが、
アサヒカメラは当時から投稿写真をたくさん載せていたようですね。
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昭和の写真投稿雑誌は、大判の”アサヒグラフ”も以前紹介しました。
1958年発刊で、時代も丁度同じくらいです。

 

カメラについてのエッセイなど。文字面はそれほど多くなく写真重視の雑誌です。

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アサヒカメラ(1955年11月号)

 

今から60年後の日本はどんな雑誌が出ているのかな。


※※ この本に似た作品にリンクします。お好きな次回を選んでください※※
■次回
昔の写真は構図/題材もお約束で、”新しさ”はありません。が、大正まで遡ると現代アート顔負けの写真が出てきます。次回は、100年前の写真『大正ピクトリアリズム』で有名な高山正隆の写真集を持ってきます。次回もお楽しみに。

 

■次回
昭和繋がりでもたくさん蔵書はあるのですが、そればかりになってもつまらないので…。”写真”繋がりで、現代アートの写真分野を取りまとめた一冊はいかがでしょうか。
 

この国の記憶―長野重一・写真の仕事【灰色の本2】

先日は、千年以上昔の人々の感情を記録した歌集を紹介しましたが、今回は戦前〜90年代の日本を記録した写真集を持ってきました。

 

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この国の記憶―長野重一・写真の仕事

 

時系列に白黒写真が収録されており、1945年の敗戦直後の様子から始まっています。
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戦後の焼け跡、横丁のはなたれ小僧、日本経済の青春時代、高度経済成長のモーレツサラリーマン、安保と政治の季節、バブル経済の東京、そして現在…グラフジャーナリズムの旗手として、ドキュメンタリー写真家として、そして一人の日本人として、この国を見つめ続けてきたフォトジャーナリスト・長野重一の半世紀以上にわたる20世紀のクロニクルがここに完結。戦後から現在までが綴られた「記憶」に写るのは、この国を作りあげてきたあなた自身の姿でもある。珠玉のモノクローム作品、175点を収録。

 

写真に合わせて年代が載せてあるので、時代が追いやすいです。

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なんといっても昭和の歴史をこの薄さでしっかり抑えている点が素晴らしいです。
こういった↓昭和の労働写真は良く見る図柄ではあるのですが、古本では如何せんその時代ばかりになってしまいます(アサヒグラフなどの昭和時代の月刊写真誌etc)

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昭和のバブル、ヒッピー、団地、工場など様々なモチーフをバランスよく載せているのが本当に素晴らしい。良いです!

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90年後半までが収録されています。
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「ちょっと昭和の風景を見たいんだけどな」という方にオススメしたい一冊です。
昭和の文献は、建築/ファッション/文化/万博/工業 など多くの切り口があり、集めていると本が溜まりがちになるのが難点ですが、このコンパクト感は素晴らしいです。

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この国の記憶―長野重一・写真の仕事


※※ この本に似た作品にリンクします。お好きな次回を選んでください※※
■次回
そうは言ってもある時代だけを切り取った古雑誌もそれはそれで面白く…。次回は1955年発刊の写真誌、アサヒグラフを持ってきます。次回もお楽しみに。


■次回
歴史繋がりということで次回は、ラブドール(ダッチワイフ)の歴史を紐解く なんていかがでしょうか。次回もお楽しみに。
 

■次回
そうは言ってもこってりどっぷり昭和にハマりたい方のために…。次回は”これでもか”と昭和30年代ごろの建築を中心とした分厚い写真集を持ってきます。次回もお楽しみに。