だれかのことを強く思ってみたかった 【白色の本8】
先日は昭和の東京を切り取った雑誌、その名も「新しい日本」を紹介しましたが、今日は今の東京の「記憶」を切り取った写真つき短篇集を持ってきました。
小説は角田光代さん。私は角田光代さんの小説がものすごく好きで、ほぼすべての作品を熟読しています。そんな中でも写真付き短篇集は珍しいです。写真は佐内正史さん。
レインボー・ブリッジを背にした制服の男女。頼まれて、シャッターを押しながら、思う。「この世界はどのくらいの強度でなりたっているんだろう?私たちはどのくらいの強度でそこに立っているんだろう?」(『ファインダー』)。水族館、住宅街、東京タワー、駅のホーム…。一年間にわたり、角田光代と写真家・佐内正史がふたりで巡り、それぞれが切りとった、東京という街の「記憶」。
以前紹介した「女生徒」の写真も佐内正史さんです。
なんというナイスコンビなのか!
いつかの記憶を紙に写したような、殻の薄い東京の姿が白黒見開きで載っています。
作品は短篇集。1作品3ページのとても短い作品が並んでいます。
角田光代さんの、ふっとこの世界の空気の薄いところを切り取るような、どこにでもある誰かの頭の片隅の記憶のような、なんでもない文調が写真ととても馴染みます。
何回読んでも記憶に残らないんだけど、それでも何回も手にとってしまう一冊です。
■次回
東京は色んな作品のテーマになりますが、他の地方も変わらず魅力があります。次回は京都の乙女的ガイド本を持ってきます。次回もお楽しみに。