遅刻者(金子千佳)【白色の本12】
先日は、内面世界にずぶずぶと沈み込んでいくような母性的暗闇を描いた画集を紹介しましたが、今回も同じく、内的世界に沈み込んでいく詩集を持ってきました。
現代詩集です。開きやすい装丁です。
この本は国会図書館にも蔵書されておらず、幻の本として有名です。
現代詩は読みづらかったり理解できない所が多いのであまり蔵書はありませんが
この”遅刻者”は、理解できないながらに好きな一冊です。
遅刻者というタイトルの通り、”間に合わない”切なさや無常をテーマにした作品が多いからでしょうか。
いろんな箇所から抜粋してみますね。
わたしはあなたからほどこえている
あなたをいくたびも失くしている
…
あなたがかいくぐってきた時間の膜を
すべりおとしてしまいたいのに
わたしにはもう読みつなぐことができない…
あなたが不在する
いくつもの夏を
指先で
なつかしく剥がしてゆく
うーん、こうやって切り取りするとポップソングの歌詞みたいですね。
実際はもっと幽明としていて繊細なのですが。
詩は、”分かる”ところだけ切り抜くと途端に空気が失われるのかもしれません。
作品は、なかでも『不在』に焦点が絞られています。
いつかはここに在った”あなた”と、そこにまつわる全ての物語への鎮魂曲、
と感じました。
この本は八本脚の蝶という日記作品でオススメされていた作品です。
当時も高い値が付いていたのですが、残り一冊を買った覚えがあります。
『実物を見たかった!』という方はぜひどうぞ。
※※ この本に似た作品にリンクします。お好きな次回を選んでください※※
■次回
自分が出会った中で大きな影響を与えてくれた人は、様々いますが二階堂奥歯さんもその一人。高校生の時に数回お会いしただけであっても、今も脳裏に焼き付いています。”遅刻者”に言及している記事を読むのも一興です。
■次回
不在でありながらも鮮やかに感情を共有する…といえば古典です。
今も読み継がれる百人一首をオールカラーでお楽しみください。
■次回
『不在するために/いつでも/あなたはゆらゆらしている/その揺れはばを/はかりきることができなくて/わたしは膝をかかえこむ』とは詩の中の一片ですが、
時や時間を溶かしこんだような作風は、なぜだかダリを彷彿とさせます。
溶けた時計で有名なダリを、大判でお楽しみください。